業務提供誘引販売取引
「仕事を提供するので収入が得られる」という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金銭負担を負わせる取引のこと。
(以下の内容は概要です。詳しくは、特定商取引法の条文の該当部分を御覧ください。)
特定商取引法の規制対象となる「業務提供誘引販売取引」
1.特定商取引法の規制対象となる「業務提供誘引販売取引」(法第51条)
特定商取引法は、「業務提供誘引販売取引」を次のように規定しています。
- 物品の販売又は役務の提供(そのあっせんを含む)の事業であって
- 業務提供利益が得られると相手方を誘引し
- その者と特定負担を伴う取引をするもの
- 解説
-
業務提供誘引販売取引に当たる例としては、例えば、以下のようなものがあります。
・ 販売されるパソコンとコンピューターソフトを使用して行うホームページ作成の在宅ワーク
・ 販売される着物を着用して展示会で接客を行う仕事
・ 販売される健康寝具を使用した感想を提供するモニター業務
・ 購入したチラシを配布する仕事
・ ワープロ研修という役務の提供を受けて修得した技能を利用して行うワープロ入力の在宅ワーク
業務提供誘引販売取引に対する規制
1.氏名等の明示(法第51条の2)
業務提供誘引販売業者は、業務提供誘引販売取引をしようとするときは、勧誘に先立って、消費者に対して、以下の事項を告げなければなりません。
- 業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)
- 特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘をする目的である旨
- その勧誘に関する商品又は役務の種類
2.禁止行為(法第52条)
特定商取引法は、業務提供誘引販売取引業者が、契約の締結について勧誘を行う際、又は取引の相手方に契約を解除させないようにするために、嘘をつくことや威迫して困惑させるなど不当な行為を禁止しています。具体的には、以下のようなことが禁じられています。
- 契約の締結について勧誘を行う際、又は契約の解除を妨げるために、商品の品質・性能、特定負担、契約解除の条件、業務提供利益、そのほかの重要事項等について事実を告げず、あるいは事実と違うことを告げること
- 契約を締結させ、又は契約の解除を妨げるために、相手方を威迫して困惑させること
- 勧誘目的を告げない誘引方法(いわゆるキャッチセールスやアポイントメントセールスと同様の方法)により誘引した消費者に対して、公衆の出入りする場所以外の場所で、業務提供誘引販売取引についての契約の締結について勧誘を行うこと
3.広告の表示(法第53条)
特定商取引法は、業務提供誘引販売業を行う者が業務提供誘引販売取引について広告する場合には、次の事項を表示することを義務付けています。
- 商品(役務)の種類
- 取引に伴う特定負担に関する事項
- 業務の提供条件
- 業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号
- 業務提供誘引販売業を行う者が法人であって、電子情報処理組織を使用する方法によって広告をする場合には、当該業務提供誘引販売業を行う者の代表者又は業務提供誘引販売業に関する業務の責任者の氏名
- 業務提供誘引販売業を行う者が外国法人又は外国に住所を有する個人であって、国内に事務所等を有する場合には、その所在場所及び電話番号
- 商品名
- 電子メールにより広告を送る場合には、業務提供誘引販売業を行う者の電子メールアドレス
4.誇大広告等の禁止(法第54条)
特定商取引法は、誇大広告や著しく事実と相違する内容の広告による消費者トラブルを未然に防止するため、表示事項等について、「著しく事実に相違する表示」や「実際のものよりも著しく優良であり、若しくは有利であると人を誤認させるような表示」を禁止しています。
5.未承諾者に対する電子メール広告の提供の禁止(法第54条の3)
消費者があらかじめ承諾しない限り、業務提供誘引販売を行う者が業務提供誘引販売取引電子メール広告を送信することを、原則禁止しています(オプトイン規制)。
この規制は、業務提供誘引販売を行う者のみならず、業務提供誘引販売電子メール広告受託事業者も対象となります。したがって、当該電子メール広告の提供について、消費者から承諾や請求を受けた場合は、最後に電子メール広告を送信した日から3年間、その承諾や請求があった記録を保存することが必要です。以下のような場合は、規制の対象外となります。
- 契約の成立、注文確認、発送通知などに付随した広告
契約内容や契約履行に関する通知など、重要な事項を通知するメールの一部に広告が含まれる場合 - メルマガに付随した広告
消費者からの請求や承諾を得て送信する電子メールの一部に広告を記載する場合 - フリーメール等に付随した広告
インターネット上で、無料でメールアドレスを取得できるサービスで、無料の条件として、利用者がそのアドレスからメールを送ると、当該メールに広告が記載されるものなどの一部に広告を記載する場合
6.書面の交付(法第55条)
業務提供誘引販売業を行う者は、業務提供誘引販売取引について契約する場合には、それぞれ以下の書面を消費者に渡さなければならないことになっています。
A.契約の締結前には、当該業務提供誘引販売業の概要を記載した書面(概要書面)を渡さなくてはなりません。
「概要書面」には、以下の事項を記載することが定められています。
- 業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
- 商品の種類、性能、品質に関する重要な事項(役務の種類及びこれらの内容に関する重要な事項)
- 商品名
- 商品(提供される役務)を利用する業務の提供(あっせん)についての条件に関する重要な事項
- 特定負担の内容
- 契約の解除の条件その他の契約に関する重要な事項
- 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
B.契約の締結後には、遅滞なく、契約内容について明らかにした書面(契約書面)を渡さなくてはなりません。
「契約書面」には、以下の事項を記載することが定められています。
- 商品の種類、性能、品質に関する事項(役務の種類及びこれらの内容に関する事項)
- 商品(提供される役務)を利用する業務の提供(あっせん)についての条件に関する重要な事項
- 特定負担に関する事項
- 業務提供誘引販売契約の解除に関する事項
- 業務提供誘引販売業を行う者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人にあっては代表者の氏名
- 契約の締結を担当した者の氏名
- 契約年月日
- 商品名及び商品の商標又は製造者名
- 特定負担以外の義務についての定めがあるときには、その内容
- 割賦販売法に基づく抗弁権の接続に関する事項
- 解説
- そのほか消費者に対する注意事項として、書面をよく読むべきことを、赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。また、契約書面におけるクーリング・オフの事項についても赤枠の中に赤字で記載しなければなりません。さらに、書面の字及び数字の大きさは8ポイント(官報の字の大きさ)以上であることが必要です。
7.行政処分・罰則
上記のような行政規制に違反した者は、業務改善の指示(法第56条第1項)や取引停止命令(法第57条第1項前段)、役員等の業務禁止命令(法第57条の2第1項)等の行政処分の対象となるほか、一部は罰則の対象にもなります。
8.契約の解除(クーリング・オフ制度)(法第58条)
業務提供誘引販売取引の際、消費者が契約を締結した場合でも、法律で決められた書面を受け取った日から数えて20日以内であれば、消費者は業務提供誘引販売業を行う者に対して、書面又は電磁的記録により契約の解除(クーリング・オフ)をすることができます。
なお、業務提供誘引販売業を行う者が、事実と違うことを言ったり威迫したりすることにより、消費者が誤認・困惑してクーリング・オフしなかった場合には、上記期間を経過していても、消費者はクーリング・オフをすることができます(クーリング・オフを行う際には、後々のトラブルを避けるためにも、書面の場合には特定記録郵便、書留、内容証明郵便等で行うことが薦められます。また、電磁的記録の場合には、例えば、電子メールであれば送信したメールを保存しておくこと、ウェブサイトのクーリング・オフ専用フォーム等であれば画面のスクリーンショットを残しておくことなど、証拠を保存しておくことが望ましいと考えられます。)。
なお、この場合、業者は契約の解除に伴う損害賠償や違約金の支払を請求できず、商品の引取り費用も業者の負担となります。ただし、原状回復義務については、契約を解除する双方が負うことになります。業者は支払われた代金、取引料を返還するとともに、消費者は引渡しを受けた商品を業者に返還しなければなりません。
9.契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し(法第58条の2)
業務提供誘引販売業を行う者が、契約の締結について勧誘をする際、以下のような行為をしたことにより、消費者がそれぞれ以下のような誤認をしたことによって契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときには、その意思表示を取り消すことができます。
- 事実と違うことを告げられた場合であって、その告げられた内容が事実であると誤認した場合
- 故意に事実を告げられなかった場合であって、その事実が存在しないと誤認した場合
10. 契約を解除した場合の損害賠償等の額の制限(法第58条の3)
クーリング・オフ期間の経過後、例えば代金の支払遅延等、消費者の債務不履行を理由として契約が解除された場合には、事業者から法外な損害賠償を請求されることがないように、特定商取引法は次のような制限をし、事業者はこれを超えて請求できないことになっています。
- 商品が返還された場合には、通常の使用料の額(販売価格から転売可能価格を引いた額が、通常の使用料の額を超えているときにはその額)
- 商品が返還されない場合には、販売価格に相当する額
- 役務を提供した後である場合には、提供した役務の対価に相当する額
- 商品をまだ渡していない場合(役務を提供する前である場合)には、契約の締結や履行に通常要する費用の額
これらに法定利率による遅延損害金の額が加算されます。
11.事業者の行為の差止請求(法第58条の23)
業務提供誘引販売業者が以下の行為を不特定かつ多数の者に、現に行い、又は行うおそれがあるときは、適格消費者団体は、当該事業者に対し、行為の停止若しくは予防、その他の必要な措置をとることを請求できます。
- 契約の締結について勧誘を行う際、又は契約の解除を妨げるために、事実と違うことを告げる行為又は故意に事実を告げない行為
- 契約を締結させ、又は契約の解除を妨げるため、威迫して困惑させる行為
- 誇大広告等をする行為
- 業務提供誘引販売取引につき、利益が生ずることが確実であると誤解させる断定的判断の提供により契約締結を勧誘する行為
- 消費者に不利な特約、契約解除に伴う損害賠償額の制限に反する特約を含む契約の締結行為